近年、猛暑が常態化する中、運送業ではドライバーの熱中症対策がこれまで以上に重要な課題となっています。高温になりやすい車内での運転や長時間労働に加え、炎天下で行う荷物の積み降ろし作業は体への負担が大きく、熱中症の発症や重大事故につながる恐れもあります。こうした状況を受け、2025年には熱中症対策が義務化され、事業者には具体的な対応が求められるようになりました。
本記事では、義務化に至った背景を整理したうえで、現場で実践できる熱中症対策のポイントを分かりやすく解説します。
目次
熱中症対策の義務化とは?

2025年6月1日に施行された労働安全衛生規則の改正により、高温環境下での作業における熱中症対策が事業者の義務となりました。これにより、各事業所には熱中症を未然に防ぐための具体的な管理体制の整備が求められています。
具体的には、暑さ指数(WBGT)28℃以上、または気温31℃以上の環境で一定時間を超えての作業が見込まれる場合には、異常時に速やかに報告できる体制整備や対応方法の明確化、従業員への周知が必要となります。
従来の努力義務とは異なり、対応が不十分な場合は罰則の対象となる可能性があるため、運送業をはじめとして、高温下での作業が発生する事業者にとって重要な安全対策といえます。
熱中症対策が義務化された背景とは?
熱中症対策が義務化された背景には、地球温暖化の影響によって猛暑日が増加し、職場における熱中症リスクが年々高まっている現状があります。特に建設業や製造業、運送業といった高温環境下での作業現場では、初期症状の見逃しや対応の遅れによって、重症化や死亡に至るケースが後を絶ちませんでした。
こうした実態を受け、従来の努力義務だけでは十分な安全対策を行うことが難しいと判断され、労働安全衛生規則の改正に至ったのです。
なぜ運送業の熱中症対策が重要なのか?
運送業では、仕事の内容そのものが暑さの影響を受けやすいという特徴があります。トラックの車内は気温が上がりやすく、また屋外で行う荷積みや荷下ろし作業も、強い日差しの下で身体に大きな負担がかかります。そのため、日々の業務が熱中症のリスクと常に隣り合わせの状況にあるといえます。
加えて、長時間運転や休憩の取りづらさから水分補給が後回しになりやすく、体調の変化に気づくのが遅れるケースも少なくありません。万が一、運転中に熱中症を発症すれば、ドライバー本人だけでなく第三者を巻き込む重大事故につながる可能性もあります。
こうした背景から、運送業における熱中症対策は、安全管理にとどまらず、企業の社会的責任としても重要視されています。
事業者が行うべき熱中症対策
運送業における熱中症対策は、ドライバー個人の注意だけに任せるものではありません。2025年6月に施行された労働安全衛生規則の改正により、高温環境下での作業が発生する事業者には、熱中症を防ぐための体制整備や従業員への周知が求められるようになりました。
特に運送業では、ドライバーが1人で稼働する場面も多いため、体調不良を早期に把握し、迅速に対応できる仕組みづくりが重要です。現場任せにせず、会社として予防と緊急対応の両面から対策を整える必要があります。
暑さ指数や気温を確認する
事業者は、ドライバーが作業する環境の暑さを把握することが大切です。暑さ指数であるWBGTや気温を確認し、熱中症リスクが高い日や時間帯を事前に把握しておく必要があります。
特に、炎天下での荷積みや荷下ろしが多い日、配送件数が多く休憩を取りづらい日、長時間の屋外待機が発生する日は注意が必要です。暑さの状況に応じて、配送ルートや休憩時間、作業時間を調整することで、熱中症の発生リスクを抑えやすくなります。
報告体制と緊急時の対応フローを整備する
ドライバーが体調不良を感じたときに、すぐに報告できる体制を整えることも重要です。誰に連絡するのか、連絡を受けた管理者がどのように対応するのかを事前に決めておくことで、対応の遅れを防げます。
運送業では、ドライバーが単独で配送しているケースが多いため、めまいや吐き気、強いだるさなどの症状が出た場合に、無理をせず連絡できる雰囲気づくりも必要です。緊急時には、安全な場所への停車、作業中断、救急要請、代替配送の手配などを速やかに判断できる体制を整えておきましょう。
従業員への周知と教育を行う
熱中症対策を実効性のあるものにするには、ドライバーへの周知と教育が欠かせません。熱中症の初期症状、予防方法、異常時の連絡先、応急対応の流れを事前に伝えておく必要があります。
特に、熱中症は自覚症状が分かりにくい場合があり、「少し疲れているだけ」と判断して無理を続けてしまうことがあります。めまい、頭痛、吐き気、筋肉のけいれん、意識がぼんやりするなどのサインを共有し、早い段階で休憩や報告ができるようにしておくことが大切です。
運送業で熱中症が起こりやすい主な場面
運送業では、運転中だけでなく、荷物の積み降ろしや待機時間、配送先での作業など、さまざまな場面で熱中症のリスクがあります。特に夏場は、車内と屋外を何度も行き来することで体温調節が追いつかなくなり、気づかないうちに体へ大きな負担がかかることがあります。
熱中症を防ぐためには、「どの場面で危険が高まりやすいのか」を事前に把握し、業務の流れに合わせた対策を取ることが重要です。
炎天下での荷積み・荷下ろし作業
運送業で特に注意したいのが、炎天下での荷積みや荷下ろし作業です。配送先の駐車場や倉庫前、屋外の荷受けスペースなどでは、直射日光を浴びながら作業することも少なくありません。
荷物を持ち上げたり運んだりする作業は、短時間でも体力を消耗します。さらに、重量物を扱う場合や階段・段差のある場所での納品では、体温が上がりやすく、熱中症のリスクが高まります。作業に集中していると水分補給を後回しにしやすいため、荷扱いの前後で意識的に休憩を取ることが大切です。
高温になった車内での運転や待機中
配送車の車内は、直射日光の影響を受けやすく、夏場は短時間でも高温になりやすい環境です。エアコンを使用していても、乗り降りを繰り返したり、荷物の出し入れでドアを開ける時間が長くなったりすると、車内温度が安定しにくくなります。
また、待機中にエンジンを止める必要がある場所では、車内に熱がこもりやすくなります。高温の車内で長時間過ごすと、汗をかいていなくても体に熱が蓄積し、だるさや集中力の低下につながることがあります。運転中の体調不良は重大事故にもつながるため、車内温度の管理は重要です。
休憩や水分補給が取りづらい配送スケジュール
時間指定配送や複数件の納品が続く日は、休憩や水分補給のタイミングを逃しやすくなります。特に、渋滞や納品待ちが発生すると予定がずれ込み、無理に次の配送へ向かってしまうケースもあります。
喉の渇きを感じてから水分を取るのでは遅い場合があります。忙しい日ほど、配送の合間に少量ずつ水分と塩分を補給することが大切です。休憩を取らずに稼働し続けると、疲労が蓄積し、熱中症の初期症状にも気づきにくくなります。
倉庫や荷待ち場所での待機中
運送業では、倉庫や物流センターでの荷待ち時間が発生することがあります。屋根のない待機場所や空調が十分でない構内では、待っているだけでも体温が上がりやすくなります。
また、荷待ちの後にすぐ積み込み作業へ入ると、休めないまま体を動かすことになり、負担が大きくなります。待機時間を休憩と捉えず、車内や周辺環境の温度に注意しながら、必要に応じて涼しい場所へ移動する意識が必要です。
熱中症の初期症状
熱中症は、突然重い症状が出るだけでなく、初期段階で体にさまざまなサインが現れることがあります。運送業では、運転中や荷積み・荷下ろし作業中に体調の変化を感じても、「少し疲れているだけ」と判断して無理をしてしまうケースがあります。
しかし、初期症状を見逃すと、意識障害やけいれんなどの重い状態へ進行する恐れがあります。特にドライバーは単独で稼働する場面も多いため、早い段階で異常に気づき、作業や運転を中断する判断が重要です。
めまいや立ちくらみが起こる
熱中症の初期症状として多いのが、めまいや立ちくらみです。炎天下での荷下ろし後や、車内と屋外を何度も行き来した後に、ふらつきや視界がぼんやりする感覚が出ることがあります。
この状態で運転を続けると、判断力や集中力が低下し、事故につながる危険があります。少しでも異常を感じた場合は、安全な場所に車を停め、涼しい場所で休むことが大切です。
大量の汗をかく、または汗が出なくなる
高温下で大量の汗をかくことも、熱中症のサインのひとつです。汗によって体内の水分や塩分が失われると、脱水が進み、体温調節がうまくできなくなります。
一方で、暑いのに汗が出なくなる場合も注意が必要です。これは体温調節機能がうまく働いていない可能性があり、症状が進行している恐れがあります。汗の量が普段と違うと感じたときは、早めに休憩し、水分と塩分を補給しましょう。
筋肉のけいれんやこむら返りが起こる
汗を大量にかくと、体内の塩分が不足し、筋肉のけいれんやこむら返りが起こることがあります。荷物を運んでいる最中に足がつる、腕や手に違和感が出るといった症状は、熱中症の初期サインとして見逃せません。
水だけを大量に飲んでも、塩分が不足したままでは症状が改善しにくい場合があります。スポーツドリンクや経口補水液、塩分タブレットなどを活用し、水分と塩分をバランスよく補給することが重要です。
頭痛や吐き気を感じる
熱中症が進み始めると、頭痛や吐き気、気分の悪さを感じることがあります。配送スケジュールに追われていると、こうした症状を我慢してしまいがちですが、無理に作業や運転を続けるのは危険です。
頭痛や吐き気がある場合は、体内に熱がこもり、脱水が進んでいる可能性があります。涼しい場所へ移動し、衣服をゆるめて体を冷やしましょう。症状が改善しない場合や悪化する場合は、早めに周囲へ連絡し、必要に応じて医療機関や救急対応を検討することが大切です。
強いだるさや集中力の低下が出る
熱中症の初期段階では、強いだるさや眠気、集中力の低下として現れることもあります。長時間運転や連続配送が続くと疲労と区別しにくいため、見逃されやすい症状です。
「いつもより反応が遅い」「運転に集中しづらい」「体が重く感じる」といった変化がある場合は、熱中症の可能性も考える必要があります。特に運転中の集中力低下は重大事故に直結するため、無理をせず休憩を取る判断が重要です。
ドライバー個人でできる熱中症対策

運送業のドライバーが個人で取り組める熱中症対策には、大きく分けて「車内環境の工夫」と「日常的な体調管理」の2つがあります。高温になりやすい車内では、温度上昇を抑える環境づくりが重要であると同時に、体調を整え、無理のない行動を心がける姿勢も重要です。
車内を快適な温度に保つための環境づくり
配送車の車内は直射日光の影響を受けやすく、非常に高温になりやすい環境にあります。一日の大半を車内で過ごす配送ドライバーにとって、車内温度を適切に管理し、常に快適な状態に保つことは、熱中症を防ぐ上で極めて重要です。
具体的には、以下のような対策を実施するのが良いでしょう。
日差し対策と断熱の工夫
直射日光を受けやすい車内では、日差し対策や断熱の工夫が熱中症予防に直結します。たとえば、フロントガラスや側面窓にサンシェードや断熱フィルムを使用することで、車内温度の上昇を抑えやすくなります。また、駐車中は日陰を選ぶ、窓をわずかに開けて熱を逃がすといった工夫も効果的です。
断熱性の高いシートカバー
直射日光を受けやすい座席まわりでは、断熱性の高いシートカバーを使用することで、座面に熱がこもるのを防ぎやすくなります。断熱素材には外部からの熱の伝わりを抑え、夏場でも座席表面の温度上昇を和らげる効果が期待できます。さらに、遮熱機能を備えた製品を選べば、日差しによる熱の影響を軽減することも可能です。
定期的なエアコンの点検
定期的なエアコンの点検も、熱中症対策には欠かせません。冷房の効きが悪い状態で運転を続けると、車内に熱がこもりやすくなり、身体への負担が大きくなります。特に、フィルターの目詰まりや冷媒不足は冷却性能の低下につながるため、こまめな清掃や点検が重要です。
基本的な体調管理
長時間の運転業務は、自覚以上に体力を消耗させます。蓄積した疲労は熱中症を招く大きな要因となるため、安全運行のためにも以下の予防策を日々の習慣として取り入れましょう。
水分や塩分を補給する
熱中症を防ぐためには、喉の渇きを感じる前から水分と塩分をこまめに補給することが大切です。汗をかくと体の中の水分や塩分が失われるため、必要に応じて水だけでなくスポーツドリンクや経口補水液も取り入れるようにしましょう。運転中や休憩時にすぐ補給できるように、塩飴や塩分タブレットを常備しておくと安心です。
こまめな休憩とクールダウンを行う
こまめな休憩とクールダウンも、体調管理には欠かせません。仕事の合間には、日陰やサービスエリア、コンビニなど涼しい場所で体を休め、体温を下げる時間を確保しましょう。首や脇の下、太ももの付け根など、太い血管が通る部分を冷やすと、効率的に身体をクールダウンできます。
暑さ対策に役立つ服装とグッズを取り入れる
高温下での作業が続く場合は、通気性や吸湿性、速乾性に優れた作業服や接触冷感インナーが暑さ対策に役立ちます。
また、空調服を取り入れることで、体温の過度な上昇を抑える効果が期待できます。空調服とは、衣服に装着された小型のファンによって外気を取り込み、服と体の間に風を循環させることで身体の熱を逃がしやすくする作業服のことです。
さらに、冷却タオルやネッククーラー、サングラス、帽子などのグッズを活用することも、熱中症予防には大切です。
今後の運送業に求められる熱中症対策の考え方

これからの運送業では、熱中症対策を一時的な対応ではなく、日常的に取り組むべき重要な課題として考える必要があります。
猛暑が当たり前になりつつある中、従来のやり方だけではリスクを防ぎきれない場面も増えてきました。そのため、ドライバー個人に安全対策を任せるのではなく、運行管理や職場環境の見直し、分かりやすい周知や教育を含めた体制づくりが求められています。
現場と管理の双方が連携し、予防を前提とした取り組みを進めることが、安全運行と働きやすい職場づくりにつながるのです。
運送業の現場で実践できる熱中症対策を徹底しよう
運送業における熱中症対策は、日々の安全運行を守るために欠かせない取り組みです。車内環境の工夫や、こまめな体調管理といった基本的な対策を続けることで、熱中症のリスクを抑えることができます。ドライバー1人ひとりが熱中症に対する意識を持つとともに、現場全体で対策を共有し、無理のない運行を行うことが大切です。
この記事の執筆者

軽カモツネット編集部
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