「改善基準告示」と呼ばれる基準により、配送ドライバーには1日の拘束時間を15時間以内に制限することが定められています。
このいわゆる「16時間ルール」は、運転者の過労や交通事故を未然に防ぐことを目的としたもので、健康管理や安全運転のために欠かせない重要な規則です。
しかし、運送業界では慢性的な人手不足が続いており、規制を超えての稼働を余儀なくされるドライバーも少なくありません。16時間ルールの内容や対象となる範囲を正しく理解することは、過重労働を防ぎ、自分の身を守ることにも繋がります。
本記事では、「16時間ルール」の概要や違反の判定基準、確認手順などについてわかりやすく解説していきます。
※本記事で取り上げる2024年4月の法改正により、配送ドライバー業務における1日の拘束時間の上限は16時間から15時間へと短縮されました。ただし、改正後も業界内では「16時間ルール」という呼び方が広く使われており、現在も通称として定着しています。本記事でも、便宜上「16時間ルール」と表記しています。
目次
運行管理における「拘束時間」のルール
本題に入る前に、16時間ルールを正しく理解するために欠かせない「拘束時間」の定義について確認しておきましょう。
拘束時間とは、始業時刻から終業時刻までの間、運転者が事業者に従って業務に従事する全ての時間を指し、業務に関連する以下のような時間が含まれます。
- 運転時間
- 車両の点検・整備
- 荷物の積み下ろし
- 荷待ち
- 点呼・会議・仮眠など
このうち、実際に車両を運転している時間を運転時間、稼働と次の稼働の間に確保される時間を休息時間と呼びます。16時間ルールを守るためには、運転時間・拘束時間・休息時間のバランスを意識したスケジュール管理が非常に重要です。
2024年4月に改正された改善基準告示の概要
配送ドライバーの労働時間等の改善を目的とした改善基準告示は、働き方改革関連法を踏まえて見直され、2024年4月1日に改正内容が施行されました。この改正により、ドライバーの拘束時間や休息期間に関して以下のように基準が変更されています。
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
1日の拘束時間(基本) | 13時間以内 | |
1日の拘束時間(上限) | 16時間 | 15時間 |
1日の拘束時間(基本)を延長できる回数 | 15時間を超えるのは1週間に2回まで | 14時間を超えるのは1週間に2回まで |
例外 | なし | 宿泊を伴う長距離貨物運送の場合、16時間を超えるのは週に2回まで |
1日の休息時間 | 継続8時間 | 継続11時間を基本とし、下限は9時間まで |
運転時間 | 2日間を平均して1日あたり9時間 2週間を平均して1週間当たり44時間を超えない |
|
連続運転時間 | 4時間運転する毎に30分以上の運転中断 |
改正後の基準では、1日の拘束時間は原則として13時間以内、長くても15時間までとされました。ただし、宿泊を伴う長距離貨物運送の場合は、例外的に週に2回まで、16時間までの延長が認められています。
拘束時間が15時間を超えた場合のドライバーへの罰則は?

改善基準告示そのものには直接的な罰則規定がないため、拘束時間の上限を超えても、ドライバー個人に対して懲役や罰金が科されることはありません。ただし、上限を超える長時間稼働が常態化すれば、ドライバーの健康に深刻な影響を及ぼすリスクがあります。
疲労が蓄積した状態での運転は注意力や判断力を低下させるため、危険な運転とみなされるリスクが高いです。道路交通法第66条「過労運転等の禁止」に違反するとして、取り締まりの対象になることもあり得ます。
慢性的な人手不足の中、配送ドライバーの長時間稼働は深刻な社会問題となっています。ドライバーの健康と安全を確保しつつ業務を維持することは、業界全体における重要な課題です。
拘束時間が15時間を超えた場合ドライバーはどうする?
万が一、1日の拘束時間が15時間を超えてしまったことにドライバー自身が気づいた場合は、以下の対応が求められます。
- 運行管理者への報告
- 違反状態の速やかな解消
- 運行記録の提出
まずは、運行管理者に対して正確かつ迅速に報告することが重要です。拘束時間を超過した具体的な時間や、その際の状況(渋滞、荷待ちなど)を詳しく伝えましょう。
また、拘束時間超過が判明した時点で直ちに運転を中止し、安全な場所で休憩を取ることも求められます。疲労が蓄積した状態での運転は、注意力の低下や居眠り運転に繋がり、重大な事故の原因となりかねません。
原因の振り返りや再発防止策の検討に活用できるよう、運行記録を正しく記入し提出することも忘れずに行ってください。
拘束時間が15時間を超えないようにドライバーができること

運送会社に雇用されているドライバーが、自分自身で拘束時間を完全にコントロールするのは難しいかもしれません。しかし、以下のようなポイントを意識することで、15時間を超えるリスクを未然に抑えることは可能です。
適切な運行計画を立てる
ドライバー自身の事前準備や計画的な行動によって業務にかかる時間を効率的に短縮できれば、15時間を超える事態を防げるケースもあります。
具体的には、出発前に運行ルートをしっかり確認し、休憩予定のポイントも事前に把握しておくことが大切です。渋滞の可能性がある区間や時間帯を事前に調べておくと、無理のないルート選定やスケジューリングが可能になります。
時間に追われる状況を避けるためにも、余裕を持った運行計画を意識して行動しましょう。
効果的に休憩を取る
こまめに休憩を取って適切に疲労を回復することは、集中力の低下を防ぎ、作業効率の向上に繋がります。自分の健康状態を常に意識し、運転中に疲労や眠気、体のだるさを感じた場合は無理をせず、勇気を持って休憩を取ることが非常に重要です。
休憩の際は車内で休むだけでなく、車外に出て軽くストレッチをしたり短時間の仮眠を取ったり、自分なりにリフレッシュできる方法を見つけられると良いでしょう。
16時間ルールは業務委託ドライバーには適用されない
ここまでご紹介してきた改善基準告示は、運送会社に雇用されている「労働者」であるドライバーを対象としています。
業務委託ドライバーは、運送会社と対等な立場で契約を結ぶ「個人事業主」です。そのため、労働者の保護を目的とする労働基準法や改善基準告示といった法令は原則として適用されません。
つまり、業務委託ドライバーには明確な稼働時間の上限が設けられておらず、全て自己管理が基本となります。
業務委託ドライバーが働きすぎを防ぐためにできること

稼働時間に明確な上限が設けられていない業務委託ドライバーが、過労や事故を防ぎながら安全に働き続けるためには、快適に稼働できる環境を自ら整えることが重要です。
ドライバーに親切な運送会社と契約する
長時間の稼働を前提とする無理な案件ばかりを提示する会社ではなく、ドライバーの状況や安全面を考慮し、適切な業務量で案件を提案してくれる会社を選ぶことが重要です。
会社の評判や実際の口コミ、契約書の内容などを事前にしっかりと確認し、納得した上で契約を結ぶようにしましょう。働きやすい環境を選ぶことが、長く安全に働き続けるための第一歩です。
配送ルートや配送方法を見直す
業務委託ドライバーは、ある程度の裁量を持って自ら業務を組み立てることができます。より効率的な配送ルートの選定やスムーズな積み下ろしの工夫など、常に自分で最適な方法を考えながら行動することで、拘束時間の短縮にも繋げられます。
最新の地図アプリやナビゲーションシステム、業務効率化ツールなどを積極的に活用することも、時間管理や身体的負担の軽減に効果的です。
案件の詰め込み過ぎを避ける
成果報酬制で働くことが多い業務委託ドライバーは、収入を増やすために案件を多く受けてしまいがちです。しかし、自分の体力や能力を超える量の案件を引き受けないよう注意しなければなりません。
案件を詰め込みすぎると稼働時間が長くなり、疲労による事故のリスクが高まるだけでなく、長期的には自身の健康を損なう恐れもあります。無理なく働き続けるためにも、適切な稼働量の見極めと自己管理が不可欠です。
正しいルールを知ってドライバー自身で身を守ろう
「16時間ルール」をはじめとする改善基準告示は、事業者を規制するためだけのものではありません。ドライバー自身の過労運転を防ぎ、健康と安全を守るために設けられた重要な基準でもあります。
規制内容を正しく理解することは、自分の稼働条件を把握し、過労運転による事故や道路交通法違反のリスクを回避するために不可欠です。
もちろん運行管理者や運送会社による働きかけも求められますが、ドライバー自身も主体的に体調を管理し、法基準に沿った適切な休息を確保する姿勢が重要です。
正しい知識と自己管理の意識を持ち、安全な運行を常に心がけることが、長く健康的に働き続けるための鍵となります。
この記事の執筆者

軽カモツネット編集部
軽カモツネットは株式会社ギオンデリバリーサービスが運営する、軽貨物ドライバー向けの情報発信メディアです。運営元のギオンデリバリーサービスは2013年の設立以来、神奈川県相模原市を中心に業務委託ドライバーの開業支援や宅配サービスの運営など多岐にわたるサポートを行ってきました。拠点数は全国40カ所以上、約2,000名のドライバーが、日々安全で効率的な配送をご提供しています。軽カモツネットでは、軽貨物ドライバーの皆様のニーズに応え信頼される情報を発信してまいります。